「伝産法」は、正式には「伝統的工芸品産業の振興に関する法律」という名称で、昭和49年5月25日に公布されました。(平成4年、平成13年に一部改正)
昭和40年代に入って、伝統的工芸品産業を建て直そうという気運が高まってきました。
公害問題、都市の過密化など高度成長に伴うひずみが表面化する中で、大量消費、使い捨ての機械文明に埋没した生活に対する反省の結果として、伝統的なものへの回帰、手仕事への興味、本物指向がみられるようになってきました。
一方では、後継者の確保難、原材料の入手難などの問題を抱える伝統的工芸品産業が、産業としての存立基盤を喪失しかねない危機に直面していたからです。
さらに、地場産業の中核を担う伝統的工芸品産業の不振が地域経済に与える影響を、みすごせなくなったこともあります。
このような背景の下に、「伝統的工芸品産業の振興に関する法律」(伝産法)が昭和49年5月に制定され、国による振興策がスタートしました。これに呼応して、地方公共団体においても、地元の伝統的工芸品産業の振興への関心が高まるようになりました。都道府県によっては、独自の基準によって伝統的工芸品の指定や伝統工芸士の認定などを行って、振興を図っているところもあります。
「一定の地域で主として伝統的な技術又は技法等を用いて製造される伝統的工芸品」の「産業の振興を図り、国民の生活に豊かさと潤いを与えるとともに地域経済の発展に寄与し、国民経済の健全な発展に資することを目的」としています。
工芸品の産地組合等からの申請に基づき、指定要件を満たすものを経済産業大臣が「伝統的工芸品」として指定します。指定を受けた産地では、振興計画を作成して経済産業大臣の認定を受けた後、その振興計画に基づいて事業を行うのに必要な経費の一部を国、都道府県等から助成を受け、産地全体で振興を図ろうとするものです。
「伝統的工芸品」として指定を受けた工芸品は、その名称とともに、次の3つの内容が経済産業省告示として官報に掲載され、広く一般社会に対し発表されます。
経済産業大臣指定「伝統的工芸品」を冠するには、この3つの指定内容をすべて満たしていることが必要です。
伝統的工芸品として指定を受けると、指定協同組合等は伝産法にしたがって、伝統的工芸品産業の振興を図るための振興計画を作成し、国、地方公共団体等の助成措置(補助金、金融、税制措置等)を受けることができます。
第1次振興計画は、5〜8年という中長期にわたり産地振興の基本となる計画です。伝統的技術・技法の維持発展を中心としつつ、近代化を視野に入れ、長期的な展望に基づいて無理のない計画を立てることが大切です。作成にあたっては、当該事業者の大多数の参加と、十分な意見調整が必要なことは言うまでもありません。
具体的には、以下に掲げる振興事業の事項ごとに(1〜9)事業の名称、内容、効果、所要資金、事業予定期間、資金調達計画等を計画期間全体について記載するとともに、産地の現況、生産の現状と見通し、原材料確保の現状と見通し等、振興計画の基礎となったデータを併せて記載します。
また、伝産表示事業を実施する場合は、表示事業実施規程を作成し、添付します。
また、第1次振興計画が終了した後も依然として課題が残されていたり、経済、社会環境の変化等により、新たに解決すべき課題が生じた場合には、これらの問題に対処するため、数次にわたり振興計画を作成し認定を受け、振興事業を継続することができます。
必要経費は、自らが調達するのを原則としますが、次の6つの事業に対しては、経費の一部について国および地方公共団体より補助金が交付されることとなっています。
経済産業大臣により指定を受けた伝統的工芸品は、個々の商品に『伝統的工芸品として指定されているものであること』を表示することができると伝産法に規定されています。
この表示は、特定製造協同組合等が経済産業大臣の認定を受けた振興計画及び経済産業省製造産業局長の認定を受けた「伝統証紙表示事業実施規程」に基づいて、特定製造協同組合等が実施することができます。
伝統的工芸品には、かなり精巧な類似品も多く、一般消費者にとってはその識別はかなり困難といえます。それだけに、伝統的工芸品の普及啓蒙のため、「伝統証紙」等を貼付することにより、一般消費者に対して識別のめやすを提供することは極めて重要です。
伝産協会が実施している伝統的工芸品統一表示事業は統一された「伝統証紙」を貼付することにより、消費者が伝統的工芸品を安心して購入できるマークです。
新しい伝産法は、対象となる団体をこれまでの協同組合だけでなく工芸家協会のような任意団体(注1)にも拡げるなど、弾力的な運用ができるようになっています。「指定申請」を始め、振興計画の推進や下記のような補助事業についても、任意団体による取り組みが可能になりました。いずれも計画を作成し経済産業大臣の認定を受けると、国及び地方公共団体から補助を受けて実施することができます。
(注1)この場合の任意団体とは当該伝統的工芸品を製造する事業者を代表するグループを意味します。
振興計画を作成した特定製造協同組合等が、伝統的工芸品販売事業者(百貨店、専門店、商社、販売協同組合等)と共同して作成する振興事業に関する計画です。
事業計画期間は5年以内を基本とし、国が支援対象とする事業は「需要開拓事業」及び「新商品開発事業」です。
具体的には、アンテナショップの開設、市場調査の実施、新商品の開発・試作等の事業を支援しています。
伝統的工芸品の製造事業者やグループが作成する需要開拓や新商品開発等産地活性化のための事業計画です。「振興計画」と「活性化計画」の違いは、前者が専ら産地全体での取り組みを前提にしたものであるのに対して、後者は製造事業者が単独又は共同で推進する事業であることです。
事業計画期間は3年以内を基本とし、国が支援対象とする事業は「需要開拓事業」、「新商品開発事業」及び「事業の共同推進事業」等の伝統的工芸品産業の活性化に資する事業です。
伝統的工芸品の製造事業者やグループ又は特定製造協同組合等が他の伝統的工芸品産地の製造事業者と共同で作成する需要開拓や新商品開発等産地活性化のための事業計画です。
事業計画期間は3年以内を基本とし、国が支援対象とする事業は、産地間連携により実施される「需要開拓事業」、「新商品開発事業」及び「事業の共同推進事業」等伝統的工芸品産業の活性化に資する事業を支援する制度です。
前述の「活性化計画」と異なるのは、「特定製造協同組合等」も事業計画の当事者になれることです。
前述の1.〜3.の事業計画と異なり、特定製造協同組合等が主体となって行うものではなく、伝統的工芸品産業を支援しようとする者が、後継者の確保・育成、消費者との交流その他の伝統的工芸品産業の振興を支援する事業計画です。
よって、補助金が支出される対象者は各産地の特定製造協同組合等ではありませんが、支援計画事業の推進によって実質的に産地振興等の効果を得ることが期待されます。
国が支援対象とする事業は「地域伝統的工芸品産業人材育成・交流支援事業」及び「産地プロデューサー事業」です。
具体的には、伝統工芸技術教育事業への支援及び産地プロデューサーが自ら産地に入り込んで、産地の事業者とともに新商品の企画、従事者の研修、販路開拓等の計画作りから事業実施までを指導する活性化事業を支援しています。